妊活マン ー令和の子作りー

男目線で不妊治療からの妊娠・出産を綴ります

アメリカで着床前診断を受けた不妊治療経験者の思うこと、費用などなど

2020年の日本ではまだ臨床研究段階の着床前診断を、アメリカで受けたので、その経験をシェアしたいと思います。詳しく調べれば色々情報が出てくると思いますので、ここでは検査について私の理解した範囲のことと、実際の体験談を綴ります。

着床前診断とは

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A: Preimplantation genetic testing for aneuploidy)と呼ばれている体外受精の際に検査できます。移植をする前に受精卵=胚に染色体異常がないかを調べます。

メリット

事前に正常と分かっている受精卵=胚を使える。もしうまくいかなかった場合、無駄な治療を繰り返さずに済む。

デメリット

ほとんど合併症はないけども、検査で受精卵=胚を傷つける可能性がある。精度は100%ではない。費用が高額。日本では受けられない(2020年現在では対象者を限定しての臨床研究段階)。

出生前診断との違いは?

ややこしいものに出生前診断があります。こちらは妊娠が成立してしばらくしてからお母さんの、採血や羊水を調べて、胎児に異常がないか調べる検査になります。よくある例としては高齢出産の場合です。

着床前診断は妊娠する前の検査、

出生前診断は妊娠した後での検査になります。

検査前確率は?

35歳ぐらいだと、体外受精をしたときの40-60%の染色体異常が見つかるそうです。

手順

卵子精子が受精して、5-6日培養して胚盤胞と呼ばれるものに育った後に、細胞を一部取ってきて、検査に出します。検査結果を待つことになるので自動的に新鮮胚移植はできず、凍結胚移植を行うことになります。

費用

細胞の一部を取る手技に1500ドル(病院への支払い)

検体の数に応じて遺伝子検査の代金は変わります。5個で1450ドルでした。(検査機関への支払い)

検査会社はIgenomixという所でした。費用の詳細はこちら↓もご参考に。

アメリカの不妊治療(体外受精)でかかった費用 2020年(ニューヨーク州) - 妊活マン ー令和の子作りー

以上の情報を得て私達が考えたこと

最初はこのような検査ができるとは全く想定していませんでした。体外受精の一連の説明の中に出てきて、その場でやらなくていいかなとDr.に答えました。Dr.も特にすすめるわけでもなくその場は終わりました。後から調べてみると、35歳ぐらいだと、体外受精をしたときの40-60%の染色体異常が見つかると分かり、日本ではできないけどアメリカではできるのなら、出来ることはやっておこうと思い、受けることにしました。

治療が保険適用になっていたので、日本であれば支払っていただろう費用を、検査にまわすと考えればいいだろうとも思っていました。

また、アメリカ滞在中はあと1年と考えていたので、できるだけ成功確率の高い方法をとりたかったというのもあります。

こうやって、書いていると「アメリカだから出来る」、「時間が限られている」という今だけ限定!という効果も決断に影響したと思います。

また検査の主目的ではありませんが、事前に性別がわかります。私はなんとなく女の子が、妻は絶対男の子が欲しいと思っていました。性別を生まれてくる前に選ぶとなんだか倫理的にどうなのかなと思い、染色体がOKだった場合は性別よりもグレードを優先するという自分たちのルールを決めておきました。

9個取れた卵子のうち5個まで胚盤胞に育ちました。ただ5日で育ったのが3つ、6日かかったのが2つでした。この5つを検査に出しました。

結果

神妙な表情でDrに伝えられた結果は、5個中、正常は2つだけでした。一般的に知られている40-60%が異常と言われるうちの悪い方の60%が異常という結果でした。

重要なこととして、5日で育った胚=成長が早い胚の3つのうち2つが正常で、6日かかった胚=成長が遅い胚はいずれも異常でした。

成長が早かった3つの胚に、見た目のグレードがいい順に123と番号を付けると、1正常2異常3正常ということになり、2と3の優先順位がひっくり返った事になりました。見た目だけでは判断できないけれども、総合的にみれば相関はありそうです。あくまでただの個人の見解なので、科学的に説明するには多くのデータが必要です。

着床前診断を迷っている方へ、ただの不妊治療患者からが思ったこと

金額が許容できるのであれば、アメリカだと検査するという選択ができてしまうので、迷ってしまいます。もしアメリカで選択する機会を得たら、日本の学会での対象者の要件にあるように、体外受精をしても流産を繰り返してしまう場合に検討すればよいと思います。初回では不要だと思います。よく体外受精が成功する場合は3回までのトライでうまくいくという話がありますが、状態の良い胚から使うと思うので、ある一定数以降、40-60%はそもそも染色体異常があって、うまく行かないのも当然なのでしょう。

私が担当の医者であれば初回の人には上記を説明して、勧めないと思います。うちの主治医からはそんな話はありませんでした。アメリカの医療がそうなのか、こちらが主張すると希望を優先してくれるように思います。ただ、我々の決断が医療者側から見て妥当でない場合も結構あるのではないかと思います。その後妊娠に至ったわけですが、着床前診断をしたのを知ってか知らずか、妊娠初期に出生前診断を受けるかどうかの説明もされました。医師に見解を求めたところあなた達次第ねという、よく言えば患者主体、悪く言えば自己責任という名の放置状態で、自分たちで考えなければなりませんでした。

着床前診断を受けて良かったこと

染色体は正常だと分かっていたので、その後の出生前診断は受けなくてもよいと考えられたこと。もちろん結果は100%じゃないので、その後検査をどうするかは自己責任と言われますが。

もし妊娠が成立しなかった場合でも、最初からうまく行かないとわかっている胚移植を受ける必要がなく、次のステップへ進める。我々の場合5個中2個しか正常じゃなかったので、最初の2回がうまくいかなかった場合3-5回目を移植するのではなく、再度採卵からやり直せる。

受けてからの後悔?

実際細胞をとる所を後からネットで動画を見てしまいました。説明されている通りなのですが、細胞を吸い取っていて、これが本当に後々影響しないのかと心配になりました。データ的にはほぼ問題という話ですが、実際の映像を見るとかなり心配になります。

 

いのちの選別?産み分け?

ここからは後から文章を書くにあたってあれこれ考えたことなので、今必要ない話と思う方は是非ともスルーして下さい。

こういった検査で上がる議論にいのちの選別になるのではという意見。正常な染色体を選ぶということで、染色体異常があっても妊娠出産に至る子供を排除してもいいのか、分かりやすく言えばダウン症の子を排除していいのかという問題です。よく知られるダウン症(21トリソミー)や生まれても早期に亡くなってしまう13, 18トリソミーは、その他の生まれることもできない染色体異常と比べると軽度の異常ということなのだと気づきました。

多くの流産の原因は染色体異常のようです。妊娠して喜んでいたらしばらくしてから流産してしまった、この場合誰が悪いとかいう話ではなくて、そもそも受精卵が成長するに十分な状態ではなかったということらしいです。我々としては子供を切望してるわけで、出来る事なら早く確実に授かりたいというだけです。ダウン症の方の幸福度はむしろ高いという話も聞きます。それでも、生まれてくる子供の責任を持つのは誰かと考えた時に、そうあって欲しいですが残念ながら社会ではなく、人権を真剣に考えている専門家でもなく、その子の親となる、私達です。治療が上手く行く確率が高い方法を選ぶ=正常な胚を選ぶという事は自然な事だと思います。そもそも体外受精自体は「医療」であって、どこまで許容されるのか難しい問題です

男女の産み分けに関することや、世界各地での男女不平等の指標に男女の出生割合があったりするので、染色体レベルで正常と分かった上での男女の選別という問題もあります。これもなかなか難しい問題だと思います。世界での各社会が親に与えている影響は大きいものだと思います。私はなんとなくそこで性別を自分で選ぶのがいやだったので、予め優先順位を決めておきました。ある意味逃げの選択肢だったかもしれません。結果的に正常な胚盤胞の2つの性別は同じだったので後から悩む必要もありませんでした。

そして正直、検査を受ける段階ではこのようにあれこれ考えた上での決断ではありません。ただ限られた選択肢の中で当時出来るだけ良いと思うことを選んだだけです。

難しいことは、この検査を受ける当事者と、検査を問題視する専門家の見ているところが違う所にあると思います。当事者はただ目の前のこと、専門家はもっと幅広いことを見ています。知らなければよかったこと、知らなくても良いことはたくさんあると思う一方、知らないでは済まされないこともあります。今になってあれこれ思考を巡らせる私みたいのがいる一方、このことに縁なく全く考えることなく過ごす人もいます。考えはまとまりませんが、思いがけず経験者となったのだから傍観者ではいけないと思っています。

 

なかなか触れにくい話になってしまいましたが、妊娠を希望する方検査を考えている方の参考になれば幸いです。そして日本でもこの検査を必要な人が受けられるよう、臨床研究が進むことを期待しています。